【No.16】谺響するときの峡谷 吹奏楽のための交唱的序曲

曲概要

舞台上に右手、左手に分かれる金管群のバンダに加え、客席後方のやはり右手、左手に設置されるバンダの合計4つのバンダ、そして舞台上の全体バンドによって演奏される曲である。

関西大学応援団吹奏楽団のOB会の設立50周年として2008年8月に作曲、同年12月に初演された。 「『異なった時間の共存による祝典序曲』という考え方で作曲された『科戸の鵲巣』と同じコンセプトで方法論を拡大した、続編とも言うべき曲である」と作曲者は自らのHPで述べる。

作曲者の指定によれば、最低でも67人の演奏者を要する。B♭クラリネットは最低8人、トランペット・トロンボーンは最低でもそれぞれ10人という指定があり、いわゆる大編成のバンドを想定して作曲されている。

 

作曲者は吹奏楽の編成に対して,これまでの方法・考え方とは異なる,新しい取り組み(本人曰く「作曲にあたっての新・編成組織方法の提案」、詳しくは作曲者のHPを参照して欲しい)に意欲的に取り組んでおり,本作品もその例に漏れない。

例えばB♭クラリネットは、ある部分では3パート、ある部分では8パートなどに分かれるという、同一楽器のパート分けが曲の中で柔軟になされているのである。 本作品は合計5つのグループは空間的に離されているが、舞台上の全体バンドが≪現在≫、それ以外のバンダ群が≪過去≫という時間的な隔絶も暗喩しており、曲はこれらの「対話」によって進む。

 

曲の前半は≪現在≫と≪過去≫の対話の様子を中心に奏でられるが、後半ではその対話を得て最終的に一つの歌となる様子が奏でられる。 徐々にグラデーションのように移り行くその情景は、まさにCDなどの演奏録音では体験することは容易ではない。

 

是非ともホールにて生演奏で楽しみたい1曲であると思う。

なお,この作品は「春日部共栄高等学校 谺響する時の峡谷(Brain Music)」のCDで聴くことができる。ぜひ購入を検討して欲しい。

この曲の推しポイント!

この曲は最低でも67人以上の演奏者が必要であるが、現在の吹奏楽団の現状を踏まえると演奏可能な団体も一定数存在するだろう。

当楽団も概ね各定期演奏会の出演者数は70人前後であり、演奏可能な楽団の1つと言えよう。

 

この曲の押しポイントは言うまでもなく「合計5つのグループによる谺響(こだま)」であろう。

客席で聞く場合には、前後左右からバンダ群の演奏が聞こえ、そこに舞台上から全体バンドが聞こえてくる。この音楽の立体感、谺響感はホールでしか味わえない。

 

演奏者としても、各パートが独立して演奏するようなスコアとなっており、どのパートを担当しても必ずやりがい、吹きがいを感じるであろう。 なお、多くの楽器が曲の部分によって分かれるパート数が異なる。

そのためパート分けが難しいが、逆に言えばこの曲の魅力をどこまで引き出せるかは我々の力量にかかっているとも言え、こだわりをもって取り組むには最適の曲と言えるだろう。

 

曲情報

曲名:谺響するときの峡谷 吹奏楽のための交唱的序曲

作曲者:中橋愛生

作曲年:2008年

この曲を一言で言うと:神曲

演奏歴:無し

(早稲田吹奏楽団での演奏歴:早、フィエスタ・ウィンドシンフォニーでの演奏歴:F)

 

Euph. K