【No.41】陽炎の樹

曲概要

2016年に東京佼成ウインドオーケストラの委嘱によって作曲され、2016年2月に大井剛史氏の式によって初演された、約13分の曲。

 

タイトルの「陽炎」は「かぎろい(かげろひ)」と読む。

 

陽炎とは、現代では地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象を言うが、古くは明け方の燃えるような空のことを指していた。

このタイトルにおいては、古くからの語義を指しており、夜から明け方にかけての太陽が昇る姿・情景と、その移り行く空間に立つ1本の樹を描いている。

この作品は三部構成となっている。

第一部「曙光」は夜から徐々に太陽が昇り始め、徐々に明け方の雰囲気が表出する様子を描く。

第二部「光芒」は太陽が地平線から顔を出しはじめ、光が放たれる。この光は樹を介して木漏れ日となる。

第三部「煌宴」はいよいよ太陽が昇り、樹からの木漏れ日も強くなり、やがて樹と光は一体になる。曲は「Des」の音が長く響き渡りながら徐々に音が増え、大きく盛り上がってこの曲は終わる。 なお、作品の中で終始一貫して樹は「Des」(death)の音に象徴されている。

 

この曲の推しポイント!

時間は連続であるから、この時間までは夜、この時間から明け方、この時間から朝、という不連続な変化はしない。

夜と明け方の間には、夜でもあり明け方でもあるような、そんな中間の時間が存在する。

 

この作品では、その連続的な変化の様子をものの見事に再現していると言える。

 

作曲者の中橋氏によると、「Aという和音とBという和音を額縁のように区切るのではなく、Aの和音にBを重ね合わせつつ徐々にBの和音に変化する」という手法を採用したという。

このことによって、徐々に太陽が昇る情景を見事に再現できている。

 

この連続的な変化を表現するためには、非常に繊細な演奏が求められる。

ただ楽譜通りに吹いても、おそらくこの作品の良い所は何一つ引き出せないのではないだろうか。

 

特に第一部、第二部は音数も少なく、一つ一つの音に「そこで演奏するだけの理由」が存在する。

奏者はその理由を把握し、的確に表現することが求められているのではないだろうか。 つい私のような未熟な奏者は楽譜に書かれていることだけに視野が狭まりがちであるが、どのような曲であっても奏者一人一人がスコアとともにきちんと「譜読み」をしなければない。

この作品を通して、改めてその事実を突きつけられたような気がする。

各プレイヤーに相当な技量がないと演奏することは難しいのではないかと想像する。この作品を見事に演奏する東京佼成ウインドオーケストラに脱帽する。さすがプロである。

 

また、聴くとわかるが、この作品においては全てのパートにソロがある。

これは東京佼成ウインドオーケストラの委嘱作品であることから、奏者の個性も作品に反映し、作曲者だけではなく演奏者の力もあってこそ、作品が輝くという思いがあったことが理由とのこと。

2020年6月1日現在、「陽炎の樹」が収録されているCDはあまり市場に出回っていないようである。楽譜も出版されておらず、このままではやがて吹奏楽という大海にこの素晴らしい作品が埋もれてしまう。

 

それは何としても避けたいと、筆者は思う。

 

曲情報

曲名:陽炎の樹
作曲者:中橋愛生

作曲年:2016年

この曲を一言で言うと:この曲のために宇都宮まで遠征しました。最高でした。
演奏歴:無し

(早稲田吹奏楽団での演奏歴:早、フィエスタ・ウィンドシンフォニーでの演奏歴:F)

 

Euph. K